徳島地方裁判所 昭和46年(モ)91号 決定 1972年3月07日
申立人
更生会社徳島精油株式会社管財人
鶴田四郎
右代理人
岡田洋之
被申立人
桜木寛行
外二名
主文
被申立人らが更生会社徳島精油株式会社に対して連帯して負担する損害賠償債務の額を次のとおり査定する。
一、違法配当金額相当損害金
昭和四二年営業年度(昭和四二年五月一日から翌四三年四月三〇日まで。以下同じ)における、違法利益配当による損害額金四〇〇万円
二、違法役員賞与金支給額相当損害金
(1) 昭和四一年営業年度(昭和四一年五月一日から翌四二年四月三〇日まで。以下同じ)における、違法な役員賞与金支給による損害額金一五〇万円
(2) 昭和四二年営業年度における違法な役員賞与金支給による損害額金一八〇万円
三、架空利益計上の粉飾決算により本来不要であつた租税債務を負担し支払つた納税額相当損害金
(1) 昭和四一年営業年度分の損害額金五、二八二、九三〇円
(2) 昭和四二年営業年度分の損害額金一、六八四、六四〇円
理由
第一、申立人の本件申立の趣旨および理由
別紙記載のとおりである。
第二、当裁判所の判断
一、申立人提出の疎甲号各証および被申立人ら審尋の結果によれば次の事実が疎明せられる。
1 徳島精油株式会社(以下更生会社という)は昭和四四年一二月一一日当裁判所において更生手続開始決定を受け、現在更生手続進行中であり、申立人は現にその管財人である。被申立人桜木は遅くとも昭和四一年五月一日(更生会社の昭和四一年営業年度始期)から更生申立のあつた昭和四四年頃までの間更生会社の代表取締役の地位にあつたものであり、その余の被申立人両名は同じ期間その取締役の地位にあつたものである。
2(イ) 被申立人桜木は更生会社の昭和四一年営業年度(昭和四一年五月一日から翌年四月末日まで。以下同じ)の決算について、実際は四、六〇〇万円余の欠損が生じ、前期繰越利益一三八万円余、利益準備金三〇〇万円、別途積立金一四〇万円を取崩し充当してもなお四、〇三〇万円余の欠損となり、利益処分などできる状況でなかつたにもかかわらず、売掛金や仮払金を大幅に水増し粉飾した上、同期の未処分利益六、七八五、九九九円(その内訳を前期繰越利益一、三八一、六二一円、当期純利益五、四〇四、三七八円としたもの)を架空計上した貸借対照表、損益計算書等の計算書類を作成するとともに、右架空利益から役員賞与一五〇万円を支出する等の利益処分案を策定し、よつて、昭和四二年六月二九日の定時株主総会において、被申立人ら取締役全員を代表し、その第一号議案(昭和四十一年度決算報告の件)として右計算書類、利益処分案を一括上提し、定数を上廻る出席株主全員の承認を得た結果、更生会社はその後現実に前記役員賞与金一五〇万円を支出した。
(ロ) 被申立人桜木は同じく昭和四二年営業年度の決算について、実際は四、三五〇万円余の欠損が生じ、計算上仮りに前年度の架空繰越利益金八三万円余、利益準備金四〇〇万円、別途積立金一四〇万円を取崩し充当したとしてもなお三、七三一万円余の欠損となり、利益処分などできる状況でなかつたにもかかわらず、売掛金や仮払金を大幅に水増し粉飾した上、同期の未処分利益七、二三七、六七七円(その内訳を前期繰越利益八三五、九九九円、当期純利益六、四〇一、六七八円としたもの)を架空計上した貸借対照表、損益計算書等の計算書類を作成するとともに、右架空利益から役員賞与一八〇万円、株主に対する配当(発行済株式総数四〇万株、額面一〇〇円に対する一割配当)四〇〇万円を支出する等の利益処分案を策定し、よつて、昭和四三年六月二九日の定時株主総会において、被申立人ら他一名の取締役全員を代表し、その第一号議案(昭和四十二年度決算報告の件)として右計算書類、利益処分案を一括上提し、定数を上廻る出席株主全員の承認を得た結果、更生会社はその後現実に前記配当金四〇〇万円、役員賞与金一八〇万円を支出した。
3 被申立人二木、同三井は、被申立人桜木が前記のような両年度の計算書類、利益処分案を作成し、株主総会に譲案として提出するにさいし、正式の取締役会を開催しようとしなかつたことについて特段異議を述べなかつたばかりか、当時更生会社の経理内容が、前記のとおり大幅に水増し粉飾されており、正確な数字はともかく到底利益処分などのできる状況ではなかつたことを知りながら、同人から事実上示された前記計算書類、利益処分案に何ら異議を唱えず黙過し、詳細な数字の辻つま合わせは同人にまかせ、前記のとおり同人をして取締役全員を代表して株主総会に議案を提出させた。
4 以上の結果、更生会社は、前記粉飾決算書類に計上された架空利益を課税対象として賦課された法人税と法人事業税、都府県市民税等の地方税(但し、利益額に関係なく均等に賦課されるいわゆる人頭税部分を除く)並びにその延滞税、利子税を義務なくして支払わねばならなくなり、よつて、(イ)昭和四一年度分として合計五、二八二、九三〇円、(ロ)同四二年度分として合計一、六八四、六四〇円の諸税を現実に納付し、右諸税は、被申立人らの怠慢により、法律上もはや返還が不能となつた(法人税法八一条、八二条、地方税法五三条の二、七二条の三三の二、三二一条の八の二参照)。
以上の事実が疎明せられる。
二、以上の疎明事実関係によれば、被申立人らについて次のような連帯責任を認めることができる(商法二六六条)。
(一) 被申立人桜木の更生会社に対する責任
(イ) 被申立人桜木は更生会社代表取締役として故意に商法二九〇条一項に違反する利益配当(昭和四二年度四〇〇万円)、役員賞与(昭和四一年度一五〇万円、同四二年度一八〇万円)に関する議案を株主総会に提出し、その結果更生会社に対し同額の違法支出をさせ、同額の損害を蒙らせたものとして、商法二六六条一項一号により更生会社の右損害を賠償する義務がある。
もつとも、(1)商法二八一条、二八三条等によれば、一般に、株式会社における「計算書類の承認」とそれによつて明らかになつた「利益の処分に関する議案の可決」とは峻別すべきものであり(それは恰かも予算案の承認とその執行を根拠づける法律、条例案の可決とになぞらえ得る)、両者は性質上別個のものであるところ、前記事実関係によれば、本件更生会社の株主総会では、その点が必らずしも明確に区別されず、利益処分案件も漫然第一号議案決算報告の件と一体として提出承認されていることが認められるため、厳格に言えば、利益処分議案自体の提出可決がなく、一見二六六条一項一号に該当しないようにも思われるが、前記議案を全体としてみれば、右一号議案の上提承認は、当該計算書を基礎とした利益処分案の上提可決をも含むものと解することも可能であるから、前記のような事情にもかかわらず一号に該当するものと解する(本件の場合、もし、議案の提出すらない違法利益処分がなされたものと解したとしても、被申立人桜木の所為は商法二八一条五号の趣旨にも反し、二六六条一項五号に該当するため、同じ責任を負うことになり、擬律は異なるが、結果は同じとなる)。(2)また、「役員賞与」支給に関する議案は、正確には、二六六条一項一号所定の「配当」に関する議案ではないが、一般に、株式会社における役員に対する賞与支給額は株主に対する利益配当額や利益準備金額とともに一括して広義の利益処分案件として、一体的に処理せられているのが実情である点に鑑みると(本件更生会社でもそのように扱つている)、役員賞与支給に関する議案も前記法条一号所定の議案と解して妨げないと考える(かりに然らずとしても、かかる違法支給は商法二九〇条一項に違反し、資本充実の原則に反すること明らかであるから、前記同様、五号により擬律されることとなり、結果はやはり同じである)。
(ロ) 次に、被申立人桜木は前記のような大幅な架空利益を計上した粉飾決算案を作成し、株主総会の承認を得た結果、更生会社をして前記のような本来負担すべきものでなかつた租税債務五、二八二、九三〇円(昭和四一年度)、一、六八四、六四〇円(同四二年度)を負担せしめ、これを現実に支払うことを余儀なくさせ、同人らの怠慢により法律上その返還が不能となり、同額の損害を蒙らせたものであり、右結果は同人の商法二九〇条、二八一条五号、ひいては同法二五四条の二、二五四条、民法六四四条所定の忠実義務に違反する所為に原因すること明らかであるから、同人は商法二六六条一項五号により、右損害を賠償する義務がある。
(二) 被申立人二木、同三井の更生会社に対する責任
・申立人二木、同三井は更生会社の取締役であるにもかかわらず、被申立人桜木の前記粉飾計算書類、利益処分案の作成事実を知りながら、特段取締役会による正式の承認手続をとるよう促さず(計算書類作成につき取締役会の承認を経るべき旨の明文の規定はないが―商法二八一条参照―計算書類の作成は重要な経営管理行為であるから、当然これを必要とすると考える)、しかも当時更生会社の実際の経理内容が、正確な数字は知らず、およそ利益処分ができるような状況でなかつたことを知りながら、事実上、これを容認し、詳細な数字の辻つま合わせは被申立人桜木にまかせ、漫然、被申立人桜木に自らを代表せしめこれらを株主総会に提出せしめたものであり、その結果、更生会社に対し前記説示のような損害(申立人主張の金額)を蒙らせたこと明らかで、以上の所為は商法二五四条の二、二五四条、民法六四四条所定の忠実義務に違反するから、商法二六六条一項五号により右損害を賠償する義務がある。
三、よつて、申立人の本件申立は理由あるものと認め、会社更生法七二条一項一号に基づき申立どおりの損害賠償金の査定をすることとし、主文のとおり決定する。
(畑郁夫 葛原忠知 岩谷憲一)
<別紙省略>